2007年1月7日から12日までインド出張に出かける。私は現在某省に勤める国家公務員であるためそのミッションについては守秘義務を負っている。もしバラしでもしようものなら、日本国政府が雇ったゴルゴ13に命を狙われかねない。そういうわけで何をしに行ったかはさておき、インド出張での徒然について色々と記すことにする。今回はタンドリーチキンの発祥の地について。
1月9日夕食に10名程度でタンドリーチキン発祥の地と言われているデリー市内の「モティ・マハール」という店に出かける。今回のミッションを仕切っている「ドン」と呼ばれる人物の提案である。ドンは「dancyu」2007年7月号で、この店がタンドリーチキン発祥の地として紹介されているのをみてここに興味をもち、インド出張の機会にここに行くことを狙っていたようである。
午後7時半ころホテルをタクシーで出る。デリーのタクシーは50年くらい前の日本車のようなレトロな車体の純国産車「アンバサダー」を用いたものである。他にも、オート3輪を改造したような「オートリキシャ」が用いられている。
デリーの道路は大混雑・大渋滞。普通自動車、バス、オートバイ、自転車といったありとあらゆる道路上の交通手段が、無秩序に渾然一体となって相互にこするかこすらないかのミリ単位の間隔で密着しあって相当なスピードを出し、間一髪の急ブレーキで衝突を避けるという芸術的な走りをしている。急発進・急停車を繰り返し、ちょっとでも前に隙間があるとそこをアグレッシブに攻めていく。そうした状況のためかどの運転手もクラクションをけたたましく鳴らし、実にやかましい。
ドンはカイロでの勤務の経験からこういう状況には慣れていて、「こういうこするような感じがいいんだよなぁ」などとうそぶいている。私もプノンペンには何回か行き、発展途上国の都会の交通事情は知っているつもりではあったが、プノンペンは街のサイズも自動車の数も小さいせいか、自動車と自動車がミリ単位の間隔で接近し、間一髪の急ブレーキで接触を避けるという事態ははじめてである。発展途上国でも人口が何百万、あるいは一千万に近いような大都市だと交通事情がこうなるのだろう。
このように渾然一体となって自動車相互が攻め合うデリーの道路交通は、一見無秩序に見える。しかしおそらくその中にも何らかの道路交通法則があって、単なる旅行者であるわれわれはそれを知らないだけで、デリーの自動車相互はそれにのっとって見事に運転しているのかもしれない。それでなければとても道路交通は成り立たないだろう。
私の泊まっているホテルは官庁街に近いため、その近辺には緑が多くて割合上品な風景が広がっているが、暫く走って店の近くに来ると徐々に繁華街という様相を呈している。繁華街と言っても2階建て位の汚い建物が延々と並んでいて照明はやや薄暗く人がいっぱいいるという何とも怪しげな感じの風景である。後でインドのバザールに行ったときのことも触れるが、とにかくインドの繁華街は人がいっぱいいてやかましく汚いところという印象だけが残っている。しかしそれゆえに、そういうところにくると、「うおーっ!! インド来たよぉ!!」と思い、インドに来た甲斐があるというものである。
渋滞のため30分位かかって「モティ・マハール」に到着する。タクシーを降りると何となく煙っぽいにおいがする。空気が煙っぽいのはここに限ったことではなく、デリー全体がそうなのである。最初デリーの空港に着いたときに煙の匂いがしてどこかで物を燃やしているのかと思ったが、そうではなく、街全体が何となくそんな煙の匂いがして霧がかっているのだ。デリーの1月近辺には霧が多いのだが、その霧の成分はどうも水蒸気だけではなく、いわゆるスモッグのようだ。デリーの空気は東京なんか比較にならないほど悪い。
2階建て位の汚らしい建物が並ぶ中で、「モティ・マハール」の店だけは何となく小綺麗なたたずまいである。店の入り口に旗があって、「since 1947」と書いてあることから、かなり歴史のある店であることがわかる。どういうわけか客はほとんど入っていない。
テーブルについて飲み物を頼むが、どういうわけかここにはアルコールは置いていない。イスラム教は飲酒NGなのは分かるが、インドではイスラム教徒は少数派である。ヒンズー教徒も酒はあまり飲まないらしいのだが、それはヒンズー教徒の戒律というよりも、ガンジーが飲酒をたしなめたことによるらしい。そういうこともあってこの店は酒をおかないのだろうか。異文化体験のひとつではある。
仕方がないのでコーラを頼む。コーラはビンに入ったのが出てくる。ストローで飲むのだが、インドのストローは日本のしっかりとしたストローと異なりペニャペニャのストローである。
適当にあれこれと注文してもらう。さほど待たされることもなくシシカバブとかカレーとかタンドリーチキンとか色々なインド料理が出てきてとても楽しい。
カレーがとてもおいしい。日本では本場のカレーの店だと激辛を競うようなカレーがよく出されているが、ここの(というより、少なくともデリー全体として)カレーはそうではなく、全般的にまろやかな風味であり、刺激性は感じない。ただただ香りがよくておいしいだけである。そりゃそうだろう。毎日激辛カレーばかり食べていたら、いくらなんでも胃腸が持たない。また、ナンがもちもちして油かげんも丁度よく実においしい。カレーをつけて食べるとカレーの風味にもちもちナンがマッチして実に幸せである。
私は、羊肉はあまり得意ではないので、シシカバブはどうしようかと思ったのだが、シシカバブにはスパイスが効いていて羊らしさを感じさせずおいしく食べることが出来た。
元祖タンドリーチキンは別に元祖の味というものはない。しかし、ホクホクしてやわらかく、スパイスが前に出るでもなく鶏肉の味をひきたてていて実においしかった。
おなかがいっぱいになったあと、店の人に厨房を見せてくれと頼むと快く応じてくれる。優に50人以上は入れる店ではあるが、この日客はわれわれのグループ10人位しかおらず、混雑していなかったので許諾してくれたのだろうか。
厨房は結構広くて清潔感があった。タンドールという壺状になった窯を見せてもらった。タンドリー料理は、このタンドールという窯を用い、そこに敷かれた炭を使って素材を焼く。チキンやマトンは串にさして焼き、ナンはタンドールの側面に貼り付けて焼くのである。ドンがナンを焼いている様子を動画に収める。ここの床面は油っぽかったため滑らないように注意したが、それでも一人豪快にスライドした方がおられた。
あれこれと食べてだいたい500ルピー(日本円にして1500円)位だったかと思う。インド的相場からすると結構な値段なのだろうが、好きなだけ食べてこの値段であれば日本的な感覚だとさほど高くないという印象。ホテルで食事をすると、普通のハンバーガーみたいなのであっても1000ルピー(日本円にして3000円)位取られるので、インド旅行の際は食事処の開発は必要だなと思った。ただし、店や食事によっては食べた後派手におなかを壊して動けなくなることが多いので、店や食事の選択は慎重に行わなければならないが。
店で記念撮影をしたりした後、タクシーでホテルに戻る。デリーにはいわゆる流しのタクシーは少なく、大抵レストランとかホテルとか観光スポットにタクシーやオートリキシャが待っていて、そこで乗ることになる。帰りは既に午後9時を過ぎていて渋滞は解消されていたことから、10分程度でホテルにたどり着く。タンドリーチキン発祥の地という歴史的な店で食事をし、インド料理を食べるときの話のネタができた。今度いつデリーに来るチャンスが来るか分からないが、またこの店に行ってみたいものである。
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posted by goiss at 15:41| 東京 ☀|
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